家庭用消費財メーカーのP&Gの調香師を21年間勤めました。洗剤、柔軟仕上げ剤、消臭剤、スキンケア、ヘアケア、ボディケア、はたまたトイレットペーパーまで様々な製品の香料を世界中に向けて作る機会に恵まれました。 

在職中、なんだか女性にウケる香り、と言うのがありました。中には香り自体を評価してもらうと、「無香」という答えが返ってくるのに、その原料を入れるか入れないかで女性ウケが全く違う香りもありました。興味を持って、試作を重ねたのですが、残念ながら私の在職中はP&Gは男性向けの製品はあまりなく、試作で作った香りが、社員の奥さんたちの間で評判になる、に留まりました。 

独立して、いつか製品化できないだろうか、と思っていたところに、手塚プロダクションとの契約が決まり、子供の頃から親しみのあるアトムのキャラクターを使わせて戴くチャンスに恵まれました。 

アトム世代の男性は特にフレグランスを日常的に使用しないのはもったいないな、と常々思っておりました。「加齢臭」なんて言われるのは日本だけです。なぜか?それはフレグランスを使わないからです。欧米人は男女とも必ず制汗剤を付け、その上さらにフレグランスをバンバン付けます。また腋臭症の人が多いので、脇のスパイシーな匂いは、フレグランスでマスキングし易いのです。しかし、高温多湿で、人口密度が高く、腋臭症は少ないけれど、酸っぱい汗をかく人の多い日本人には、フレグランスは、却ってよくない結果をもたらす事が多いのも事実です。 

また、日本の社会では、「フレグランスを付ける=頑張っちゃってる」と言う考えがまだ根強く、折角香りに気を使いたくても、なかなか一歩を踏み出すのが難しいのが現状です。 

そこで日本人男性向けに、女性の好む香りだけを使って、お金に糸目を掛けずに香りを作ってみました。得てしてそう言った香原料は高価なのですが、安い原料と違い、頭が痛くなったり、出しゃばり過ぎたり、残り過ぎたりと言うことがありません。アンバー、フランキンセンス、糸杉、ムスク、カシス等々女性が心ときめき、癒される香りを厳選しました。一つ一つの香りが美しいのは勿論、個人的にもこんな体臭の男性がいたらいいな、と思う理想の男性の香りのハーモニーにたどり着けました。 

最新の消臭成分も入れて、ボディミストに仕上げましたが、香水より濃度を低くして、使いやすくしました。なにもしていない、と思わせながら、さりげなくするおしゃれこそ大人の男性の嗜みで、女性が惹かれるのはそう言う男性だな、と思います。 

コンセプトは「無香という香りをまとう」です。男性にもそれくらいの秘密を持って戴いた方が、ミステリアスではないでしょうか?